走りはじめたのは、たった一ヶ月前のことだ。
そんなこと、誰に言うでもなく、僕はこっそりと始めた。理由? 特にない。ただ、なんとなく。なんとなく、って案外すごい力を持ってる。
もともと僕はサッカーをやっていた。小さいころからずっとボールを追いかけてきた。だけど、走るのが得意だったかというと、そうでもない。
短い距離ならそこそこ速かった。けど、長距離走になると、全然ダメだった。練習で持久走をすると、キーパーよりは速いけど、フィールドプレーヤーではビリ争い。まあ、そういうポジションだったわけだ。
別にそれが悔しかったわけじゃないし、頑張って改善しようとも思わなかった。ああ、僕はこういう人間なんだな、って、どこかで納得してた。
そんな僕が、今、走っている。
明日は、東日本国際マラソン大会に出る。10キロ。たった一ヶ月前には、こんな展開、自分でも想像してなかった。
走るのが楽しいかって? うーん、正直よくわからない。
でも、走ったあとに感じる、ちょっとした身体の疲れとか、やけに澄んだ空気とか、汗が乾くときのあの感じとか、そういうものが、妙に心地いい。
サッカーの練習でヘトヘトになったあの頃を、少しだけ思い出す。別に走ったからって、人生が劇的に変わったわけじゃない。
だけど、走ったぶんだけ、ほんのちょっとだけど昨日とは違う自分になれてる。そんな気がする。
だから、明日も走る。
理由なんて、後からゆっくり考えればいい。